創世記機械

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スターウォーズ計画が現実味を帯びていた時代の作品です。衛星軌道上に配置された核ミサイル網のある世界で、最終戦争に向かう情勢の中、兵器への転用が可能な画期的発見をした科学者を通して、科学と社会・政治の関わり方を描きます。

統一場を説明できそうな理論を主人公クリフォードが発見するところから物語は始まります。相棒オーブは現実的で、好きなことをさせてくれれば何でもよく、約束した見返りは適度に返す余裕もある人ですが、クリフォードは潔癖症で口出しされるのが大嫌い。先人であるツィンメルマンは、政府と適度に付き合えと助言するのですが、兵器転用を要求する過度な介入に業を煮やしたクリフォードは、ついに戦争を終わらせるための協力を申し出るのでした...。

統一場理論は物理学の4つの力を一つの法則で説明するもので、今も君臨する難問となっています。作中では高次元から説明する架空の理論が設定されています(超ひも理論も高次元でしたね)。我々の三次元空間では粒子の生成・消滅と見える、既存の制約を受けない高次元空間(K空間)でのエネルギー伝播というものです。

三次元で「時間」と呼ぶ座標軸をも超える伝播のため、どんな遠くでも検出さえできれば今の姿を見ることができます。SF≒宇宙(最後のフロンティア)ですが、本作クリフォードもここから宇宙に関心を進めようとします。遠くを観測できるだけでなく、エネルギー量の説明という点で、宇宙モデルすら覆してしまう超理論を見つけたのですから当然です。

しかしスポンサーでもある政府は軍事転用を要求し続けました。物語中の国際情勢のためでもありますが、仮にそれがなくとも多少圧力が弱くなるだけで、次の戦争のために、次の次の戦争のために要求したことでしょう。そして検出器はレーダーに、放射器は破壊砲「J爆弾」に。

理論から予想されるエネルギー量と、実測値の差に悩んでみたり、本作も科学的視点のあるべき姿を描いています。素粒子物理学で特に特徴的な話題ですが、理論が先行する学者と、実験が先行する学者の違いにも触れられています。他にも応用物理学者を自認する人が、新発見をできる人間がいかに貴重かを語ったり、色々な科学者が登場します。

ブラックホールに関してホーキング放射も出てきます。古典物理学的には光さえも出られないはずのブラックホールから、量子力学的には熱放射があるとする理論で、発表は1974年。この作品は1978年発表ですから新しめの話です。一般向け図書「ホーキング宇宙を語る」がベストセラーになった80年代半ばよりもずっと前。SF作家は最新の科学に敏感です。

さてテーマこそそっちですが、それでもブレインストーミングの様子は本領発揮で、眩しいぐらいのやり取りが繰り広げられています。熱くてたまりません。最後に我慢できなかったのか、モレリやオーブが取り組もうとしていたアイデアが現実になった、ずっと未来のエピローグへ一気に飛びます。なんと舞台はシリウス星系への移民船。たった数ページに夢が詰まりすぎです。

「J爆弾」発動の前日に、クリフォードと大統領シャーマンとのやり取りがあります。西側の兵器も消し去られるだろうとは、読者はもちろん作中のシャーマンも感付いたのでしょうが、そのどんでん返しは圧巻でした。さらにエピローグでそれがハッタリだったかもしれないとひっくり返されるのが、またいっそう痛快です。

ことによると「星を継ぐもの」以上にネタの無駄遣いをしているかもしれません。本作につぎ込まれたガジェットで2~3冊は書けるでしょう。BIACの本来の使い方だけでも行けますし、何より感応通信は台詞一つだけで済まされていますから。オーブのワープ航法はありきたりとしても、モレリのエネルギー伝送は広げられそうです。

戦争のない世界、最初から平和利用だけに邁進して発展した科学技術の姿は、いつかどこかで見てみたいです。21世紀に入ってからというもの、なんだか世界が薄暗いので、輝かしい未来を描く作品は清涼剤になってくれます。

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