インテグラル・ツリー

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ラリー・ニーヴンの名前を「リング・ワールド」以外で知った人は少数派ではなかろうかと思います。私は「ウォーロック」シリーズで知ったのでした。というか「リング・ワールド」は未読ですな。

なぜ「ウォーロック」かといえば、ゲームブックブームの頃、ファイティング・ファンタジーの最初の掲載誌が「ウォーロック」だったから、という名前だけの繋がりだったりします。本を手に取るきっかけなんて、そんなものでしょう。だからこそ、古本屋で偶然見かけた、表紙がファンタジーっぽい「インテグラル・ツリー」を続いて手に取ったわけです。

「リング・ワールド」はダイソン球ですが、こちらにも近いアイデアがあり、ダイソンツリーと呼ぶそうで。それは彗星上で人間が活動するための籠だというのですが、物質の循環をさせるには資源が乏しすぎて無理そうな気がします。

一方、本作の樹は、大気のあるドーナツ状の惑星軌道を、無重力に近い状態で漂うものとなっています。資源は樹の外にもあり、例えば「池」も漂っており、時々樹と衝突しては洪水をもたらすのです。樹は一つの巨大な環境ですが、永続的なものでなく、それ自身も成長し枯れていく大きな循環が設定されています。

漂う位置で獲得できる資源が変わるため、全ての生物は軌道を修正する能力を持っている...。作中の人間は外来種で、まだ500年程度しか経ていないため、住環境である樹と一蓮托生するしかありません。こうした生物の設定は説得力があります。樹そのものに関しては、巨木より群体の方が進化や生存の説明がしやすい気がします。

作中の人間は、かつて宇宙船から逃げ出した地球人類で、それが文明や科学の多くを失いながら、環境に適応し原始的な社会を形成しています。無重力に合わせて進化し、身体もひょろ長くなっているのです(表紙の青年のように我々のような体型も稀にいる)。受精卵は重力なしでは成長しないことが明らかになっていますが、それも作中で考慮されており、妊婦は汐力を少しでも受ける場所にしばらく居住します。もっとも、受精卵に重力が必要なのは分化過程の話ですので、妊娠が判明する遙か以前に汐力を受けさせないと無駄ですから、死産・畸形出産の確率が高そうです。

疑問を感じるところはあります。樹の両端が反対方向の風を受けるとあります。大気の角速度との相対的なものなのはわかりますが、それなら回転し続けるか、横向きに漂うのではないかと思います。中性子星ルヴォイに対し茶柱のように安定するのが今ひとつ腑に落ちません。
「西は内に、内は東に」は恐らく衛星軌道を航行する話、軌道を下げると角速度が上がり、上げると遅くなる話だと思いますが、何しろ作中の方角がイメージしづらいため、よくわからない部分となっています。

樹は長さが100kmあって、重心ではルヴォイからの引力と遠心力が釣り合っており、無重力です。同じ物体ですから角速度が同一、内側は円周速度が足りず、内側への力を感じるはずです。外側は逆に遠心力が勝り、外側への力を感じるでしょう。これでは何もかもが吹っ飛んでしまうわけですが...何か回収して元に戻す仕組みが必要です。惑星ゴールドブラッドがそれのようですが、作中でもさわり程度のため、気になってしまうと疑問として残ります。

「ウォーロック」でも感じましたが、ニーヴンは人間の描写に関しては妙に生々しいのですね。本作でもいくつかのカップルに子どもができる話が含まれています。それでいて感情の表現は、文化圏が違うためか端折りすぎなのか、わかりにくい部分があり、読みにくさを感じる部分となっています。

終わり方はアメリカ的です。奴隷制への反乱を起こす舞台の名前が「ロンドン」樹とイギリスの地名ですから、ちょっと露骨なところもあります。反乱、漂流、樹の住民たちがかつて乗っていた移民宇宙船の管理AI(立ち位置として一種の神)との接触、その支配からの脱出、奴隷制度のない新天地での新たな生活、ともうSF関係ない話になっています。

舞台設定がSF風味なだけで、大航海時代的な冒険活劇と見るのが正しいのでしょう。元々人間が未開人レベルになっているため、機械類はOパーツ状態で滅多に扱いませんから、本筋をファンタジーとして楽しむことは、著者も望んだことかもしれません。その読み方をする限り、荒唐無稽でおもしろい作品だったと思います。

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