せっかくだから俺はこの赤のディスクを選ぶぜ
※メディアは赤くありません

 ブエナ・ビスタ社より発売されているスタジオジブリ作品「千と千尋の神隠し」の映像が「赤い」と話題ですが、ストーリー的にも興味があったので入手してみました。

再生環境:
テレビ…SONY KV-21DS1
DVDプレイヤー…AIWA XD-DV370
コンポーネント接続、色合い調整無し

 まずこの素晴らしい作品が、劇場公開当時は内容を評価する声が多かったにも関わらず、DVD発売に当たって品質のみを問題にされるのは、非常に悲しいことです。
 したがって、品質を問題にする前に、私が劇場では見ていないこともあるので、内容をまず批評しようと思います。


 映像もストーリーも実に興味深いものです。

 さて映像です。八百万の神々をこう映像化できるのは、宮崎駿の他にはいないでしょう。アニミズムの宗教観において神を擬人化し過ぎるのは愚の骨頂なのですが、人間離れした姿の神々のなんと多いことか。エジプトはともかくインドですら、既存の動物を踏み外すことはできなかったというのに。
 しかしなぜ日本・中国風デザイン一色の中に、湯婆婆という西洋的な魔女を登場させたのか理解に苦しむところです。アクセントにはなっていますし、「天空の城ラピュタ」のドーラ船長に通ずる姿は、これがジブリ作品だと明確に主張していますが。
 銭婆のところに行くあたりから風景は完全に西洋風、千も初めの洋服姿ですっかり魔女の物語になりますが、残念ながらオリジナリティは薄らいでしまっています。「銀河鉄道の夜」や「ネバーエンディングストーリー」がちらつくのです。大変惜しいです。またラスト前には言うまでもなく「マンガ日本昔話」も。でもこれは仕方ないですね。龍に他の表現をした方が不自然というものです。

 物語の方は昔話のモチーフを感じさせるものです。最終的な悪者がいないものの(過去にカリオストロ伯爵とムスカ大佐しかいないと言えばいない)、古典的な勧善懲悪の要素も含んでいます。無断で神々の食事に手を付けた両親が豚になってしまう冒頭部を筆頭に、腐れ神を忍耐強く世話した褒美と言えるダンゴ、そして坊や顔無しのエピソード。
 腐れ神の話は、身体から粗大ごみが大量に出てくるオチには説教臭いところがありますが、全体としては笑いを誘うものになっているので好きだったりします。
 坊も銭婆が絡んでくるまでは位置付けの不明なキャラでしたが、ネズミにされてしまった後(千が呼び込んだトラブルではある)、千が踏みつけたハクの呪縛に触れたということもあるようですが、銭婆がいる沼の底への旅で外界を目にし、独り立ちを果たしました。
 顔無しについては、「口説きモード(笑)」の時に髪が生えているのがキュートですが、青蛙を飲み込むまで言葉すら話せない即ち表現下手な存在、また居場所もないようです。あの髪に象徴されるように、今時の若者を含む不確定な人々を描いたキャラだと監督は言っています。そしてこの作品で最も嫌いだが描きたいキャラであるとも言っていました。しかし気になったのは、罰が甘いことです。油屋で食べまくり人を飲み込み暴れ放題暴れた罰が、苦団子一つというのは甘すぎではないか、と感じました。確かに酷く苦しみましたが、これは報復でも罰でもありません。少なくとも千は顔無しのためと思って、親に食べさせるつもりだった苦団子を与えています。あれが本来の彼ではないと悟っていたようですが、それにより素直で素朴な姿に戻ります。
 罰はどこに? 苦団子、つまり校正する過程が罰なのでしょうか? それとも顔無しがしたことには罰が不要、或いは顔無しに罰を与えるのは適切でない、というメッセージでしょうか? それは即ち暴走する若者に罰は逆効果である、と言い換えられるかもしれません。
…ですが、顔無しにとって千は何者であるかと考えると、また別の視点で見ることができます。千は顔無しの母親のような存在ではないかということです。そうなると、更正のみを願うのは正しい姿の一つということになるでしょう。少なくとも、罰のみを願うのはよほど末期的状態でもなければ、親のすることではありません。ただし悪いことをしたのなら、それを悪いと誰かが伝えなければ、躾は永遠に果たせません。心の中でわかっているのなら、言うまでもないかもしれません。ほんの一言伝えるだけで、身に染みて理解するでしょう。それは沼の底へ向かう電車で席を勧めたときの、「おとなしくしててね」だったのかもしれません。

(2002.09.16)

 問題の映像品質ですが、確かに赤いです。AV Watchにもアメリカ版・フランス版との比較記事がありましたが、韓国版なんぞというのが手に入ったので、いまさらですが並べてみます。
 メニューの色合いは韓国版の方がはっきりしているのがわかります。この辺は色彩感覚に合わせたんでしょうか。
日本版
韓国版
千と千尋メニュー・日本版
千と千尋メニュー・韓国版
千と千尋本編冒頭・日本版千と千尋本編冒頭・韓国版

 ま、5年も前の話で、散々言われ尽くされ、見ての通りでもあるんですが、HDリマスターとかでこっそり直すんでしょうか?
(2007.09.13)

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